こちらの記事で書いた標準化の具体例の話。
業務の標準化の重要性を理解し、いざ着手しようと思ってもどこから手をつけていいかわからない、何から始めていいかわからない。そういう時は、この3ステップで行うとスムーズに進む。
具体的には、
- 理想状態を描く
- そこから引き算してフェーズに合わせた最適状態を描く(ここが当面のゴール)
- 現状を見える化して差分を埋める
のステップを踏む。
1. 理想状態を描く
現状の経営リソースを無視した、あるべき理想像をまずは設定する。現在の組織構成や資金余力などは度外視して、ビジネスモデルから導出した標準的なフローを設計するわけだけれど、具体的にはIPOの審査に通るくらいのフローをイメージすればよい。会計監査人や証券会社などから文句が出ないレベルのフローだ。ビジネスから生じるリスクをじゅうぶんに低減できるだけのコントロール(統制行為)を備えたもの。
2. フェーズに合わせた最適状態を描く
次に、上記で設計した完成図から、フェーズに合わせて過剰なピースを取り除いていく。スタートアップとひとくちに言っても、創業間もない組織らしい組織もない会社から、上場準備の手前まで進んでいる会社まで事業フェーズはそれぞれで、おのおののフェーズにあった理想像というものがある。
フェーズにあっている、というのが重要で、標準化が不足していても、過剰でも、どちらも事業活動を阻害することになるので、バランスを取ることに留意が必要だ。
ポイントは、あくまでこれは仮想の理想状態からの引き算によって求めるということ。フェーズが進むにつれて、省略したピースを加えていけば、理想形に到達するというイメージを持つことが重要だ。もちろん現実の会社経営では、絶え間なく経営環境が変化していくなかで、絶対的な理想像を保持し続けることは不可能なのは当然だ。
ここで言いたいのは、描いた理想像を不変のイデア的なものとして絶対視するべき、ということではなく、未来のあるべき姿に向かってピースを埋めていくという志向性が大事だということである。
なんのロードマップもないなかで、その場限りのツギハギで業務設計を行い、後から振り返ると何がどうなっているのかわからない「秘伝のタレ」のような状態にしないのが肝要。
このフェーズにあった最適状態が、目指すべきゴールとなる。
3. 現状の見える化とギャップ解消
最後に、現状を見える化する。今行なっている業務を、「だれが」「どのように」「なんのために」行なっているのかを、細かく可視化していく。
可視化は、ひたすらテキストで書き出すのでもいいし(J-SOXでいう業務記述書のイメージ)、図式化してもいい(フローチャート)。
現状が見えたら、フェーズに応じた最適状態と、現状のギャップを埋めていくことになる。足りない部分は足して、余分な部分は削る。この適合作業の結果、大幅にコスト増加となる場合には、ステップ2で設計した最適状態が、フェーズに対して過剰すぎる可能性があるので、見直しの作業が必要となる。あるいは、必要なコストが可視化されていなかっただけかもしれず、その場合は、ビジネスモデル自体を再考する必要が出てくるかもしれない。
このギャップ解消の作業は、一発でぴったり終わるものではなく、業務を実際に回しながら、微調整してく必要がある。
部分最適にならないように
これら標準化の作業において重要なのは、各セクションの部分最適にならないように業務フローの全体に目配せすることだ。
理想状態を設計するにあたっては、会社の全体像を理解している経営者がしっかりコミットしていく必要がある。各事業部のトップは、どうしても自分の事業の最適化に目が行きがちなので、管理部門は経営者をサポートする立場で、バイアスを除去していかなければならない。
スタートアップにおいては、どうしても古参メンバーの声を聞きがちになるが、全体最適のためにはそういうメンバーの声を過大評価しないことが重要である。
おわりに
この3ステップは1度回して終わりではなく、常に継続して走るプロセスである。いったん出来上がったスタンダードは、あくまでそのタイミングでのスタンダードであり、企業の成長にあわせて絶え間なく変化していくものである。それを忘れて、業務を硬直化させてしまわないように、留意が必要だ。