スタートアップ経営管理の覚書

スタートアップの管理部門で働く公認会計士のブログ

起業家にとって市場規模より大切なこと

スタートアップを起業するに際して必ずと言っていいほど、市場規模が大事だと言われる。

最低でもXXX億円の規模がある市場を選んで起業すべし、というようなことだ。

だが実際にスタートアップを経営する立場になると、市場規模ってそんなに大事なのか、という疑問が出てくる。

投資家にとって市場規模はとても大事

市場規模が大事、というのは、主に投資家である。

主に、っていうか、投資家以外から言われたことがない。

投資家にとっては、自分の投資先(あるいは投資先候補)の事業が属する市場規模が大きいほうがいいに決まっている。

投資家の仕事は、一言で言えば、株を安く売って高く売り、その利ざやを抜く商売である。

株の価値は、企業の成長を前提とすれば、創業時がもっとも低く、時の経過とともにどんどん高くなっていく。

したがって、シード期に低い投資価格でシェアを確保し、企業価値が高くなったタイミングで売却する。

スタートアップが成功する確率は控えめに言っても天文学的に低いので、そのぶん、成功した時のリターンが高くなるように投資先を選ばなければいけない。

ゆえに、うまくいったとき(市場シェアを抑えたとき)の企業価値が大きくなるよう、戦う市場自体の大きさを重視する。

起業家にとってはサイズよりもポジション

一方、起業家にとってみたら、自分の事業の市場規模がどれくらいかって、あまり気にする必要がない。ように思う。

スタートアップにとってまず重要なのは、会社を存続させることである。

会社が存続するためには、自社の商品やサービスが市場に受け入れられる必要があるが、それは事業の最初の段階では市場規模とは関係がない。

大事なのは市場の規模ではなく、市場におけるポジションであって、起業家が選択すべきは大きな市場ではなく、自社が一番になれる市場である。

もちろん大きな市場で一番になれるならそこを狙えばいいけれど、通常、大きな魅力的な市場には競合が多く、そこで勝ち切れる可能性は低くなる。

市場自体のサイズはそこそこでも、そこで勝ちきることの方が重要だ。

大きな市場の隣接市場を狙う

もっとも、市場のサイズにこだわらないからといって、ビジネスが成立しないようなニッチすぎるところを狙っても意味がない。

もちろんスモールビジネスを否定しなけれど、それはスタートアップという事業形態でやるべきではなく、個人事業主で十分である。

たとえば最大で1億円の売上が見込まれる、という市場があったとして、個人事業主であれば十分な稼ぎを得られるが、スタートアップとしては成立しない市場規模だ。

狙うべきは、ビジネスモデルの転換によって大きな市場へシフトできるような、ニッチな隣接市場である。

仮にその市場単独では数十億円程度のサイズでも、うまくシフトすることで数百億円から数千億円の市場に参入できるようなところを狙う。

このニッチ市場で勝ち筋を見つけたら、その知見をもとに、より大きな市場へアクセスしていけばよい。

いきなりブロードウェイでの主役を目指すのではなく、盛り場のダンサーとなってそこでナンバーワンを目指すような感じだ。

おわりに

投資家と会って言われる二大ワード「市場規模」と「フルコミットのエンジニア」はお腹いっぱい感あります。