スタートアップ経営管理の覚書

スタートアップの管理部門で働く公認会計士のブログ

株式投資型クラウドファンディングは有益な資金調達手段か?

まだ一般的な資金調達方法として認知しているとはいえないが、株式投資型クラウドファンディングという資金調達方法がある。2015年5月に金融商品取引法の改正によって解放されたまだ若い制度だ。

これはひとことで言えば、インターネットを通じて一般投資家から出資を募る資金調達方法だ。

株式公開していない会社の株式は、市場で流通していないため、非上場のスタートアップが幅広く投資を募ることは事実上不可能だったが、株式投資型クラウドファンディングによって、一定の条件下で可能となった。

では、この制度を利用した資金調達は、スタートアップにとって有益なのだろうか?

小口の株主が増える

株式投資型クラウドファンディングは、投資家ひとりあたりの投資額が1社につき年間50万円までと制限がついている。

監査も受けていない非上場会社に対して投資するわけなので、投資家のリスクを一定範囲におさめるための措置である。

一方、投資を受けるスタートアップ側の立場で見れば、まとまった額を調達しようとすると、必然的に株主の数が増えることになる。

この制度の上限である1億円を調達しようとすると、最少でも200人の株主が増える。

当たり前のことだが、株主名簿の管理をはじめとして、株主の数が増えれば増えるほど、管理コストがかさむ。

これは管理に割くことができるリソースの少ないスタートアップにとっては、ネガティブな要素だ。

資本政策が複雑になる

IPOやM&AによるEXITを前提にした場合、資本政策は経営上、最重要課題のひとつとなる。

創業メンバーのみで株を保有したままEXITできれば楽だが、現実的には難しい。資金や、資金だけではなく経営のサポートを受けるために、VCやCVC、個人(エンジェル)から投資を受けることが一般的である。

基本的に、資本政策は、株主が少なければ少ないほど良い。利害関係社が増えると、それだけ考慮すべきファクターが増える。したがって、同じ額を調達した時に株主の数が多くなる株式投資型クラウドファンディングは、資本政策を複雑にする要因となる。

これも、ネガティブな要素と言える。

資金だけ必要なスタートアップにとってはプラスかもしれない

一方、上記ふたつの逆を考えると、資金だけ必要なスタートアップにとっては、ポジティブな制度と言えるかもしれない。

VCにしても、エンジェルにしても、基本的には資金調達と「口出し」はセットである。いわゆるハンズオン型投資と言われるやり方だ。

起業家にとって、投資家はよき理解者であり、メンターであり、辛い経営の道を伴走してくれるランナーである。というのは、まぁ綺麗事であって、実際は相性が悪くて苦労する・・・ということも多々ある。

口出しはいいから、お金だけ必要なんだ、というタイプのスタートアップにとっては、分散された小口の株主がわらわらといるだけのほうが、経営に余計な口出しをされずに気楽と言えるかもしれない。

資本政策にしても、アメリカの上場実務においては日本ほどうるさくないようで(日本はやたらと資本政策についてうるさい。反社についてものすごく敏感だからだろうか)、将来的にはあまり問題にならないかもしれないし。

おわりに

資金調達の一手段として、株式投資型クラウドファンディングについて考えてみた。気軽にスタートアップに投資できる、という投資する側には面白い制度だが、投資される側にとっては、使いどころが悩ましい制度である。