スタートアップ経営管理の覚書

スタートアップの管理部門で働く公認会計士のブログ

スタートアップにおけるダイバーシティ

企業においてダイバーシティが求められるようになって久しいが、スタートアップにおいてダイバーシティと強い経営を両立するのは難しい。

誤解を恐れずに言えば、スタートアップにおいては、通常、ダイバーシティの確保と成長スピードは対立的な要素となる。

スタートアップにおいてダイバーシティを維持しながら経営を回していくにはどのような施策が必要か、考えてみたい。

ダイバーシティは短期的には成長スピードを遅らせる要因となる

ダイバーシティは、一言でいえば組織の構成員の多様性ということになる。性別や人種、思想信条などの多様性を保持することこそ、企業の競争優位の源泉になると言われることもあるが(ダイバーシティ・マネジメント)、スタートアップの、特に立ち上げ初期段階においては、必ずしも当てはまらない。

メンバーの多様性よりも、単一性のほうが立ち上がりのスピードに貢献する。身も蓋もない言い方をすると、経営者のビジョンを信奉し、仕事にフルコミットするメンバーだけで事業を進めたほうが、事業の進捗は当然に速くなる。

価値観やベースとなる能力が近ければ近いほど、共有する時間が長ければ長いほど、コミュニケーションは円滑にとれるものだ。

多様なメンバーとスタートアップを回していくには

一方で現実的には、そのような単一的な価値観や能力を持つメンバーだけで会社を切り盛りしていけることは稀であり、様々な人が事業に関わってくることになる。ダイバーシティの確保を意図的に行わなくても、必然的に、多様性は生まれてくるものだ。

私の会社でも、育児中のママがオペレーションの中心メンバーになっており、1日数時間の勤務や、リモートでの勤務がメインになるケースも多い。

このような働き方だと、経営メンバーとの間に溝が生まれやすく、気づくと仕事への温度感にものすごく大きなギャップができてしまっている、ということになりがちである。このギャップが、決定的になる前に、うまく一体感を作っていかなければいけない

バタバタと時間が過ぎていくスタートアップを多様なメンバーで回していくポイントは、二つある。一つはビジョンの浸透、もう一つはオペレーションの確立である。

ビジョンの浸透

言うまでもないことだが、経営者の持っているビジョン、事業の方向性をこまめに共有し、浸透させていくことが最重要。

ビジョンはえてして抽象的な言葉になりがちだからこそ、しつこいくらいにくりかえし共有することが大切である。できれば言葉で伝えるだけではなく、ビジョンに裏打ちされた具体的な行動として示していけるのが良い。

全員が、ベースとなる信念とゴールを、うわべだけでなく、深いレベルで共有していくことが、多様性のあるメンバーでのスタートアップ経営に不可欠だ。

オペレーションの確立

能力やコミット感がバラツキのあるメンバーで事業を進めるのに、プラクティカルな意味で大事なのは、業務のオペレーションがしっかり確立していることである。

各業務に携わるメンバーに多様性があっても、オペレーションに一本軸が通っていれば、大きな事故なく、一定の品質で業務は回っていく。

逆に、メンバーの安定性が不足しており、かつ、業務の流れも流動的である場合には、事業は致命的に前に進んでいかない。

ビジョンの共有は、人のメンタリティに訴えていく作業なので時間もかかり、それぞれの人に応じて伝え方を変えていかないといけないので大変だけれど、オペレーションを決めていく作業はテクニカルな要素が多いので、比較的取り組みやすい。

おわりに

スタートアップでダイバーシティと経営の強さを両立するためのポイントについて書いたが、ここに関しては、日々悩みが尽きない。スタートアップの経営者にとって、メンバーといかに質の高いコミュニケーションをとり続けることがいかに重要か、ということを感じる日々である。