二大クラウド会計ソフトといえばMFクラウド会計とfreeeである。
クラウド会計ソフトはライトユーザー向けというイメージが強く、実際に、一般的なプランでは会計ソフトとしての機能は貧弱であることは否めない。
だが実は、freeeはエンタープライズ版という、上場準備にも対応したプランを用意している。
主な機能を抜粋すると、以下のようなものだ。
- 仕訳承認履歴の表示と承認者指定による検索
- ユーザー情報の更新履歴の確認
- ユーザーの権限変更の確認履歴表示
- ユーザーのすべての操作ログ取得
- 開始残高・期末残高更新履歴表示
これだけの機能が実装されていれば、監査法人の監査や上場審査で問われる内部統制についてはクリアできる水準といえるだろう。
一方、MFクラウド会計は、このような上位機能を持つプランはリリースされていない。では、MFクラウド会計を使って上場を目指す場合、どのような対応をすればよいか、考えてみた。
すべての帳票を印刷して、紙でコントロールする
なんのためのクラウド会計ソフトかわからないが、すべての帳票を印刷して、紙ベースで相互チェックや上位者による承認証跡を残し、それを保管して正式な帳簿とする方法が考えられる。
バカか・・・という感じだが、これはこれで、ひとつの方向性ではある。
通常のオペレーションでは金融機関との連携による仕訳省力化などの利便性は受けつつ、内部統制の観点からは昔ながらの方法で対応する。
当然、クラウド上のデータと紙の完全一致を検証する必要があるが(つまり、承認後にクラウド上の帳簿に変更がないことが絶対条件)、そこをクリアすれば、説明はつきそうである。
しかし、バカか・・・感は否めない。
タグ機能で承認を擬制する。
紙で承認はいくらなんでも・・・なので、クラウド上で承認できないか考えてみる。
承認機能はないのだが、タグをつけられる機能がある。仕訳の一本一本に、任意のタグを付与することができるのだ。そこで、たとえば「経理マネジャー承認済」といったタグをつけて、承認したらそのタグを付与していく。すべての仕訳にタグがつけられれば、承認済みとみなす。
もっとも、タグを付与できるユーザーを制限できないので、権限者以外のものが承認タグを付与する可能性は排除できない。
ここは、当然に監査法人とバトルになる場面だろうが、戦って勝てないこともない・・・ような気がしないでもない。
仕訳の消去はせず、すべて修正仕訳で対応する
MFクラウド会計では操作ログを見ることができない。したがって、仕訳を消去した場合に、だれが、いつ消去したかを確認することができない。
これはなかなかに致命的な仕様なので、仕訳を誤った場合に、消去を禁じることにする。
すべて修正仕訳をエントリーし、備考欄に「仕訳No.XXXXに対する修正仕訳」など明記することで、対応関係を明白にしておく。
いずれにしても操作ログが確認できない以上は、消去されていないことの網羅性は確認しようがないのだけれど。ないことの証明は悪魔の証明である。
この点についても、それの何が問題なんだと開き直れば、戦えるんじゃないかな・・・と思う。
月次単位で仕訳入力をロックする
MFクラウド会計では指定日以前の仕訳入力を制限する機能がある。これを小まめに使って、月次決算の単位で仕訳入力をロックしていくことで、誤操作を防ぐ。
翌月以降に誤処理が判明した場合には、上記の修正仕訳を入れることで対応していくことになる。
もっとも、このロックについても自由に解除ができ、かつ、操作ログがわからないため、以下繰り返し・・・である。
仕訳テストに耐えうるのか
会計監査人の重要な監査手続に仕訳テストというものがある。不正リスクに対応するために、全仕訳を対象として統計的な処理を施し、不正の兆候を示すような仕訳を識別するわけだ。
MFクラウド会計は各仕訳が持っている情報が少ないが、タグ機能をうまく利用して、監査に必要な情報を付与するのはありかもしれない。仕訳テストを実施するためにcsv形式でエクスポートした際にもタグ情報はひとつのテキスト情報として吐き出されるので、容易に検証対象にすることができる。
どのような情報を付与するかは、会計監査人と協議して決めれば良い。
このような方法により、仕訳テストにも耐えられるのではないか・・・という気がする。
おわりに
MFクラウド会計を利用して上場準備を進める方法について、考えてみた。
ていうか、MF社は当然に自社ソフトを利用して上場したんだよね。どうやって審査をクリアしていくのか、もっと情報を出してくれればいいのに。