スタートアップ経営管理の覚書

スタートアップの管理部門で働く公認会計士のブログ

人に業務を合わせないで、業務に人を合わせるためにすべきこと

業務設計をしていると、人に業務を合わせるか、業務に人を合わせるかというジレンマが生じる。

前者は、現在のメンバーの能力や稼動時間に合わせて業務を設計することであり、後者は、設計した業務に合わせてメンバーを適宜教育、補充していくことである。

実務においては、現状の人に引っ張られて考えてしまうのがよくあるが、現状の人ベースで考えることのデメリットは大きいので、気をつけないといけない。

人に業務を合わせるのは簡単

まず誤解のないようにしておくけれど、「人に業務を合わせる」のは「業務を属人化させる」ことではない

業務の標準化を進めるにあたって、現状のメンバーに合わせた設計をすることだ。

山田(仮)は商品の知識は豊富にあるけどおっちょこちょいだから、気が利く田中(仮)をこのタイミングでサポートに入れて・・・みたいな発想である。

この方法は、業務の設計も容易であるし、また、現場への導入・浸透がスムーズだ。なんといっても、ひとりひとりの顔を思い浮かべながら設計するわけなので、現場のストレスがない。

一方で、この方式のデメリットもきちんと意識しておく必要がある。

  • 現状の組織に合わせた最適設計とならない
  • メンバーが入れ替わった時に機能しない
  • メンバー自身の成長につながらない

といったところだ。

最後の点、見落としがちだけれど、けっこう重要だと思う。現状の能力や稼動時間に応じて設計してしまうと、本人のコンフォートゾーンで仕事をしてしまうので、成長がない。

スタートアップは事業の成長とともに組織自体が急激に成長していくことが求められる。そして、そこについていけないメンバーは残念ながら脱落していくことになる。

経営者が、メンバーのためと思った配慮が、かえってメンバーの成長を阻害し、ひいては組織とのミスマッチを起こしてしまうことにつながるのだ。

業務に人を合わせることの難しさ

したがって、セオリーは業務に人を合わせることになるわけだけれど、これが実際にやってみると難しい。

とくに、いったん人に合わせて回り始めた業務を、ぐいっとあるべき姿に引き寄せていくタイミングで、どのように人を巻き込んでいくか。

設計図を作ること自体はたやすい。これについては以前も書いたけれど、上場審査に耐えうるレベルを最終ゴールとして引き算で設計する。

 

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だが、その設計図を「ほら、このとおりやって」と見せたところで、人は簡単には動かない。

その業務の必要性を、頭で理解するだけではなく、感情面でもしっかり腹落ちした上でないと、いちど習慣化した業務を変えることはできないものだ。

そのためには経営者は、しっかりと会社のビジョンを示していくことが大事である。

今はこういう状態だが、このタイミングでは、ここまで成長していきたい。そのために、今この業務を行う必要がある。これだけの負荷がかかるかもしれないが、これだけのメリットもある。

くどいほど、コミュニケーションをとっていかないといけない。

別の観点で言えば、きちんと標準化され、高度化されたオペレーションを経験して、身につけておくことは、メンバー自身の転職市場での価値を高めることになるので、メンバー本人にとっても望ましいことである。

悲しい哉、スタートアップの99%(甘く見積もってもたぶんこれくらい)は失敗するので、失敗したスタートアップのメンバーはどこかのタイミングで他社に移るなり起業するなりして自分のEXITもしないといけない時がくる。

そうならないように頑張っているわけだけれど、まぁ、現実はそんなものである。経営者としてメンバーに誠実であろうとすると、個々人の汎用的なスキルを高めておいて自社以外でも通用するようにしておく、というのが大事になってくるのだ。あんまり、こういう気持ちは伝わらずに、煙たがられるだけなんだけどね。

おわりに

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」とは山本五十六の言葉だけれど、人を動かしていくのは本当に難しいですね・・・