スタートアップ経営管理の覚書

スタートアップの管理部門で働く公認会計士のブログ

シード期の資金調達は慎重に

会社の経営において資金繰りは常についてまわる問題だけれど、創業間もないシード期においては、とりわけ苦しむことが多い。常に資金ショートのことを考えながら経営していると、しっかり腰を据えて事業に取り組むことができない。

近年はスタートアップへの株式投資も成熟しつつあり、VC(ベンチャーキャピタル)、エンジェル(個人投資家)問わず、積極的にシード段階の会社に投資するプレイヤーが増えている。

少額(100万円〜300万円程度)の投資で、割り当てる株式比率は10%〜20%というケースが一般的だろうか。

ただ、目先の資金欲しさに安易にこのような投資に飛びつくと、のちのち後悔することも多いので、最初期の資金調達には慎重になるべきである。

資本政策は後戻りできない

スタートアップに関する教科書には必ずと言っていいほど書いてあるのだが、資本政策は後戻りができない。

平たく言うと、いちど株主になった人たちとの関係性を、あとから是正するのは非常に難しい、ということだ。したがって、株式を割り当てる相手は慎重に選ばなければいけない。とりわけ、会社のメンバー自体が少数であることが多いシード期においては、最初に入ってくる投資家が経営に与える影響はとても大きい。会社法上は、たいして影響力を行使できない10%の持分比率だったとしても、会社の雰囲気やカルチャーに大きく影響を与えることになる。

最初の投資家を選ぶに際しては、創業メンバーを選ぶのと同じくらい、しっかりと人間的なフィット感も見極めたうえで選びたい。

逆にいえば、相性もよく、会社にとって不可欠なスキルやノウハウや人脈等を持っているのでもない限り、この手のシードラウンドの投資は受けない方がいい。

そもそも、100万円で10%という条件は、会社を安売りしすぎであることは、きちんと理解しておくべきだ。

創業融資を活用する

なぜかスタートアップ経営者は借入を嫌う人が多いのだけれど、創業融資制度の活用を検討すべきだ。

日本政策金融公庫の新創業融資制度が代表的なものであるが、経営者の担保なしでそれなりの額(上限3,000万円)の借入ができる。据置期間もあるので、その期間で事業が立ち上がり、営業キャッシュを獲得できるようになればよい。

その間でマネタイズに至っていなくても、顧客のプロファイリングが完全にできており、サービスのプロトタイプが完成し、マネタイズに至るまでのロジックが組みあがっていて、あとは資金投下すれば収益化&投資回収の目処が立つ、というところまでの事業検証ができていれば(アーリーステージまで進んでいれば)、それなりの金額の資金調達が可能になっていると思われる。

この段階になれば、経営者も自分の事業について多少なりとも自信がついてくるので、会社を安売りせずに、じっくりと投資家選びができるようになっているはずだ。

このタイミングで調達した資金で、創業融資の返済と事業のための投資を行なっていく、という流れは悪くない。

副業も悪くない

この初期の資金調達に絡んでよく言われるのが、スタートアップは本業に集中すべきで、副業(受託開発やコンサルティングなど、目先のキャッシュを稼ぐための業務)をすべきではない、という話。

一面においてはそのとおりで、本業に集中していたほうが、当然に事業の立ち上げスピードは速くなる。

だが、投資家サイドからしきりに言われる時は、要注意とも言える。本業に集中するためには資金が必要で、その資金を自分が提供する、という主張がなされるわけだが、いちばん最初に書いたように、このタイミングでの株式割当はよほどのことがない限りすべきではない。

本業で溶かすための資金を自前で稼ぐために副業するというのは、それほどおかしな理屈ではない。

理由は2つ。真にすぐれたビジネスモデルであるなら、多少の立ち上がりの遅れは競争優位性に致命的なダメージを与えないことがひとつ。もうひとつは、事業の立ち上がりは後から取り返せても、資本政策は取り返せないこと。

シード期の株式による資金調達のメリットとデメリットを勘案した場合に、副業で資金を獲得しながら自前のサービスを育てていく、というのは有効な選択肢である。

おわりに

もっとも、シード期において、ほんとうに素晴らしい投資家と出会い、創業期を支えてもらうこともある。インターネット等で読める成功した会社の創業ストーリーには、特によく出てくる話だ。でも、その裏には、何百倍、何千倍ものシード期の資金調達失敗によるスタートアップの死体が転がっていることを忘れてはいけない。